◆第8回(求められる法則の“質的”変化)

前回(第7回)はダイナミックスキル理論に関して、私の感じている点をご説明しました。今回もその延長です。

この理論の中に、以下のような「能力の成長に関する法則」があります

統合化今自分が持っている複数の能力が結びつき、現在の能力レベルから新たなレベルに成長することを説明する法則
複合化今自分が持っている複数の能力が現在のレベルの中で組み合わさって、より高度な能力になることを説明する法則
焦点化置かれている状況や与えられた課題に応じて、最適な能力を選び出すことを可能にすることを説明する法則
代用化ある特定の状況内で獲得された能力を、他の状況に応用することを可能にすることを説明する法則

※精緻には、上記の4つに加えて「差異化」という法則もあります

今回は「焦点化」と「代用化」に関して、私が感じていることを論じたいと思います。

上記の通り、「焦点化」は状況や課題に応じて、持っている能力を取捨選択することであり、「代用化」は過去に獲得した能力を別の状況に応用することです。このため、「焦点化」では、能力を増やすことやそれを成長させることを考える前に、置かれている状況や課題の特性を掴む感度を高めることが重要と言えます。現在はDX(デジタル・トランスフォーメーション)などによる大幅な変動が起こっている状況でもあるため、なお更この感度が大切と言えます。

一方「代用化」は、状況や対応すべき課題が大きく変質している状況になると、なかなか活かしづらい(流用しづらい)能力と言えます。重要なポイントは「焦点化」と同様に、能力を応用したい新たな状況や課題に関して、過去の状況や課題との類似性や相関性を見定める感度を高めることです。

社会や会社の仕組み、日々のオペレーションが安定しているケースでは、「焦点化」と「代用化」は最も武器になる能力であった、と言えると思います。経験を積むことで能力を獲得していく。その反復がものを言う世界です。しかし仕組み自体やオペレーションの変動性が高いケースでは、逆に活かしづらい。さらに、適用する能力や状況判断を誤ると、マイナスの影響を及ぼし得る可能性があります。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)に対応するためにCX(コーポレート・トランスフォーメーション:自社の変革)を進める企業であればなお更、(個人の能力のみならず)組織の能力についてもこれと同様に、この「焦点化」と「代用化」の弊害が起こり得る可能性がある。組織という大きな船の慣性(アンカー効果)も相まって高まりうると感じています。

この点に関しては、以前(第6回ブログで)ご説明した「弾力的マネジメント能力」(長期的な計画の精度を高めるよりも、むしろライトな計画に基づき、トライアル&エラーを行いながら、軌道修正していく能力)の重要性が高まっている、今後ますます高まっていくと考えています。

※ダイナミックスキル理論に関しては、加藤洋平氏の著書「能力の成長」がお薦めです