◆第17回(実装方式の変化に伴い、重要となる検討テーマ)
1.個別開発領域の縮小
IT業界の歴史的推移をコンピュータの構成に即して整理すると、個別に開発する必要がある領域は、徐々に縮小してきています(下図ご参照)。ハードウェアに近い領域から順に、階層が形成され、その各階層を汎用品で補うことができるようになってきているためです。しかも近年では始めからソフトウェアをサービスとして提供しているものが増えています。業務自体の汎用性が高い部分は業務を標準化して、そうしたサービスを適用することで、迅速かつ安価に利用できるようになってきていると言えます。
これはあくまで、アプリケーション開発において“個別に開発される領域”が縮小していることだけを表しています。言い換えると、システムの中でソフトウェアが占めるウェートは減っていません。むしろ(この表では表せていませんが)適用領域の拡大に比例して、拡大の一途にあります。
少し脱線しますが、ソフトウェアを想定通りに動作させるためには、“枯れる”と言われるように、多くの動作確認・修正を通じた品質向上の取り組みが必要です。この点で、階層化して共通のプラットフォームが形成される結果、それが多くの状況で利用されるために“枯れて”品質が高まるという意味で、望ましい方向性だと思います。
2.ソフトウェア化する世界の拡張
他方で、ブラウザのNetscapeを開発したことでも有名なエンジニアで、投資家でもあるマーク・アンドリーセン氏は、ウォールストリートジャーナル紙に “Why Software Is Eating The World.”(ソフトウェアが世界を飲み込む理由)という寄稿文を書いています。
これは下図のように、ソフトウェアが定型化できる部分だけではなく、定型化できない部分にも適用できるようになっていき、人・会社・産業・公共が行ってきた領域を侵食していく、という意味だと解釈しています。
実際に、ハードウェア資源の高速・大容量化および低価格化、通信回線の高帯域化、スマホを含む多様な端末の普及、さらにはAIがブレークスルーする要因となったディープラーニングの普及などの背景もあり、それを活かす世界がソフトウェアの拡張によって広がっています。
3.汎用製品の組み合わせ実装の増大
こうした大きなトレンドの中で、私は最近「ソフトウェア調達方法の『割合』」に着目しています。私の個人的な感覚で恐縮ですが、それは、スクラッチ開発(必要な部分を個別に開発する方法)が大きく縮小している一方で、汎用製品(Ready-Made)が従来のスクラッチ開発領域のみならず、新たな拡張領域にも侵食している部分です。概念図で表現すると、下図のようになります。
主な理由として、変化が激しいこともりクイックにトライアルを行なうアプローチが増えており、それとの相性がよい。また、スピードやコストの面でもメリットがあるためです。
特にこの流れは、中小企業にチャンスだと思います。知恵やアイデアがあれば、従来は高価だったシステムを迅速かつ安価に調達できる状況に近づいているためです。
4.では、今後何が起こるのか?
この「ソフトウェア調達方法の『割合』」が、大きく汎用製品にシフトしている点を踏まえると、それを調達する企業、それを提供するSIerともに、大きな変化がおきていくと考えています。
中でも企業側にとって特に大切なポイントの1つに、『将来像の描出とそれに基づく全体統制』があると思います。
汎用製品を活用することで、品質の担保されたソフトウェアを迅速・安価に調達できる。また勝者総取りの特性もあり、勝ち馬に乗れば、より高度な機能拡張の恩恵にも預かれる(可能性が高い)。
しかし他方で、機能が分散(分断)されているため、それを統合的に管理しつつ、データのインターオペラビリティ(相互運用性)を担保していく必要があります。また、パーツ化するソフトウェア部品は日々改良されたものがでてきます。それらの動向を幅広く把握し、総合的に良否を判断しながら、選定していくことが求められるためです。
そしてこの結果として、「製品の選定、調達・構築、運用の各プロセス」にも影響が及ぶとともに、「要員スキルや蓄積していくべきナレッジ」も見直しが必要となっています。これが(企業の内部に限った話ではありませんが)今後の情報化要員のキャリアパス、育成方針に大きな影響を与えていくと考えています。