◆第26回(求められる現場の再生)
変化のスピードが飛躍的に増していく現代において、個人の価値観や組織のあり方が劇的に変わっています。当然ですが、これらがビジネスに与える影響はとても大きい。中でも私が特に影響が大きいと考えているのは、企業が生み出す「価値の源泉」の根源的な変化です。
これまでの工業化社会における価値の源泉は「製品・サービスの生産効率」でした。標準化とルールがモノを言う世界です。この部分が、デジタル基盤の進展に伴って、「知識創造の量と質」に移行していると考えているためです。しかし組織に深く浸透している従来の感性は、この根源的な変化に適応することが難しい。
私のこのような認識に基づいて、企業経営への影響を「Why/より処」・「What/戦略」・「How/バリュー」の観点から整理したものが以下の図です。
従来、ビジネスモデルや競争環境が限られていたこともあり、「ビジョン」がより所/Whyとして機能していた。それをより具体化した中期経営計画がベースになっていたと思います。そして、その道筋を具体化した戦略/Whatに基づいて、それに適したバリュー/Howが形成されていました。
一方で知識社会への転換が進む中で、企業はビジョンしかり、中期経営計画を立てづらい、不確実性の高い社会・経済環境に置かれるようになってきている。そこで、やや人の根源的な部分に問い掛ける「ミッション」に力点が置かれるようになってきている。言い換えると、全てではありませんが戦略を立てて計画的に進めるスタイルは、時代にそぐわなくなりつつある。このため、「より所/Why」と「バリュー/How」の2つに重みを置いた経営スタイルに移行しつつあると感じています。
より所/Whyとなる「ミッション」は「パーパス」とも言われていますが、私は「ミッション」は外向きのもの、「パーパス」は内向きのものだと解釈しています。ミッションが「自分たちは社会にとって何ものなのか」の宣誓であるのに対して、パーパスは「自分たちは社会の中でどうありたいのか」を改めて定義し、社員に働く意味を問うメカニズムだと捉えているためです。いずれにしても定義だけではなく、それを浸透させつつ個人のやりがいや働き甲斐に繋げていく取り組みです。労働時間と創出する価値が比例しなくなった点もありますが、多様性を増す社会ゆえに新たに強く求められるものだと思います。
経営サイドのみならず、現場サイドでもインパクトが大きいのが、もう一方のバリュー/Howです。極論すると「効率」を最優先してきた諸制度やルールを「非効率」に転換する感覚に陥るためだと思います。前例や他社動向に基づく判断ではなく、自らトライしつつリスクをとってそこから学んでいく必要がある。「言うは易く行うは難し」という典型的かつ根本的な違いがあるためです。またバリュー/Howの浸透・定着に向けては、従来「社員を会社の色に染める」ことに主眼が置かれていました。採用・教育や人事評価の諸制度、就業規則もそれを企図していました。この部分を大きく転換していく必要があるためです。
ここで問題になるのが、現場のマインドセットであり、企業風土となっている(なってしまっている)「失敗を許容しない文化」だと強く感じています(日ごろの活動を通して、この部分の根深さ・強力さには途方に暮れそうになることがあります・・・)。より所/Whyとなる「パーパス」の浸透にも影響がありますが、何よりテスト&ラーンの取り組みに必要となるバリュー/Howの大転換に大きく反作用の影響を与えるためです。
環境変化に関しては皆が理解しています。それに基づく行動変容といった施策も発信されている。しかし、この発信だけでは機能しません。組織の深層に眠るマインドセットが大きな壁として立ちはだかっているためです。バブル崩壊後の市場の成熟による影響も受けていますが、それよりも旧来の効率を追求する(悪い意味での)感性・価値観が残存している。ここが、これからの知識社会で求められるバリュー/How(テスト&ラーン)に対して真逆の価値観となっていて、現場に深く浸透しているためです。
このため(以下の図は私がよく用いているものですが)、欠落しやすいピースである『現場再生』にこそ目を向け、この深層に眠るマインドセットの変革に対峙していく必要が高まっていると考えています。