◆第29回(エンゲージメント・マネジメント)
度々このブログで発信してきましたが、時代特性を踏まえると、これからの組織には「信頼関係の強化」が重要だと考えています。言わずもがな自社資源(モノ)ではなく、顧客体験(コト)に基づくビジネスにシフトしているためです。このため顧客を知り、そこで得た情報を組織内の学びにつなげる「テスト&ラーン」へのスタイル変革をご支援しています。
リカレントな環境(学び場)づくりに向けた「現場再生」とも言えます。私はこの取り組みを「チームビルディング」(共感する組織づくり)、「チームエンゲージメント」(自走する組織づくり)、「チームエンパーワ―メント」(学習する組織づくり)の3ステップで展開することをお薦めしています。
今回は、2つ目のステップとなる「チームエンゲージメント」について論じたいと思います。
従来からの「ビジョン、ミッション、バリュー」、昨今では「パーパス」などの文脈で語られる会社の存在意義。この浸透による働き手の動機付けに関する取り組みです。サイモン・シネック氏の著書『WHYから始めよう!』そのものですが、具体的な行動計画を立てて実行することに向かない状況もあり、より根源的な会社の存在意義を定義し、働く個々人を動機付けていくことがテーマと言えます。
実際に、ベイン&カンパニーの定量検証でも以下のような結果がでています(縦軸が生産性、横軸がエンゲージメントの度合い)。
驚くべきことに「エンゲージメントの高い社員」は(満足していない社員はさて置き)「満足している社員」の2倍以上の生産性になるとのレポートです。
一方、人事コンサルファームのコーン・フェリーによる調査結果では、残念ながら日本企業の社員はエンゲージメントが低い状況が続いている。その上、年々低下傾向にあり、他国との差がますます開いていることが報告されています。
何をどうしていくのがよいのか?いろいろな切り口がありますが、私は「ビジョン」に対する社員の姿勢に着目しています。
ビジョンなどを明確化していても、それをちゃんと浸透させる仕組みや機能が日本企業では弱い。本気にさせるためのメカニズムの欠如です。古き良き日本企業では、愛社精神が高かったため、現場で能動的に行われていた部分なのかもしれません。いま一度、会社としてのメカニズム強化が必要だと考えています。
社員のエンゲージメントを高めていくためのステップの一例を以下に示します。縦軸にビジョンやパーパスといった会社の意義の「解像度」を、横軸に各社員への「浸透度」を取っています。
まず始めは「パーパスの明確化・発信」です。これは解像度でいうと全社レベルの表現となり、ある程度の企業で既に策定されています。一方でその浸透度は、企業によりかなり異なっている印象を持っています。このため、浸透度(横軸)は「認知」レベルの会社もあれば、正確な「理解」レベルの会社までと幅がある。
次が、そのパーパスを事業や部門、または多国籍企業であれば地域(リージョン)にブレークして、社員との対話を通して「納得」させていく取り組みです。既にエンゲージメント・マネジメントの重要性に着目している外資系の会社では取り組みが活発です。
最後は、解像度を「個人」レベルにブレークするステップです。まず「個人の働く意味・目的」を改めて明確化する。それと会社のパーパスとの共通項を見出す。これにより、仕事を(会社ごと、他人事ではなく)“自分事”にする。私はこの仕事の“自分事”化の部分が、とても重要だと認識しています。
一方で(上記で「まず…」と記載した)「個人の働く意味・目的」を明確化することに難航するケースが多いと感じています。背景はいろいろあると思いますが、社会人になっても学生時代と同じようにレールがあり、成果に応じて公平に評価される筈だという暗黙の認識があるのかもしれません。逆に、個人でこのような取り組みを能動的に行い、ステップアップした後、その会社を踏み台にして出ていく方もいます。
3ステップで例示しましたが、最後の3ステップ目となる、社員の仕事を“自分事”にすること迄をゴールとして活動することはとても有効です。そのために会社としてのメカニズムを作り、継続していくことが、大切だと考えています。弊社ではこのメカニズムをつくり、定着させていくご支援に加えて、エンゲージメントを高めるドライバーを可視化しながら、次なる一手を考える取り組みを進めています。
各ドライバーは、大きく「社風」、「制度・仕組み」、「運営」の3つの軸をブレークしたものを用いています。例えば、社風であれば、「方向性への共感」、「顧客嗜好」、「個人の尊厳」、「風通し」といったドライバーを用いて評価しています。
社会やビジネス環境にも影響を受け、かつ企業の特性や目指している方向性に応じて調整は必要ですが、社員のやる気を高めるという目的は変わらない。一人でも多くの方が、仕事を単なる稼ぐ手段ではなく、「生きがい」とまでは言わずとも、「やりがい」を感じられるようにするお手伝いがしたい。そう考えています。