◆第30回(再考サイクル)

度々このブログで発信してきましたが、時代特性を踏まえると、これからの組織に重要なのは「信頼関係の強化」だと考えています。言わずもがな自社資源(モノ)ではなく、顧客体験(コト)に基づくビジネスにシフトしていることが背景にあります。顧客を知り、そこで得た情報を組織内の学びにつなげる「テスト&ラーン」へのスタイル変革が強く求められると考えているためです。リカレントな環境(学び場)づくりに向けた「現場再生」です。

私はこの取り組みを「チームビルディング」(共感する組織づくり)、「チームエンゲージメント」(自走する組織づくり)、「チームエンパワーメント」(学習する組織づくり)の3ステップで展開することをお薦めしています。今回は、3つ目のステップとなる「チームエンパワーメント」について論じたいと思います。

前提認識に顧客基点への転換に加えて、変動性の高い社会・ビジネス環境があります。一般的によく言われる「VUCAの時代」です。過去の経験則から状況を正しく認識でき、行動の結果も予測できる時代から、状況認識・行動の結果予測ともに、難しいという状況認識を指しています。

この認識をもう少しブレークしたものが以下の図です。

<図>

  • 左上:変動(Volatile

状況認識は可能で行動した結果もある程度予測できるケース

  • 左下:不確実(Uncertain

状況は認識できるものの行動した結果は予測が難しいケース

  • 右上:複雑(Complex

行動の結果は予測できるものの状況認識が難しいケース

  • 右下:曖昧(Ambiguous

状況認識も行動の結果予測も難しいケース(誰にも理解できない、説明できない)

実際にビジネスに取り組む際、自社がやろうとしていることがこの4象限のどれに該当するものなのかを識別しておくことはとても重要だと考えています。逆説的に言えば右下の「曖昧」の領域は、リスクマネジメントで言うところの「想定外」とされやすい部分です。それでも、未来のビジネス化を見据えて取り組むべき領域でもあり、その場合「想定内」として取捨選択して管理していく必要がでてきています。

その際、組織に求められる特性は大きく変わります。同じく、管理の性質も変わってくると考えています(下の図ご参照)。

従来はVUCAの度合いが低かったこともあり、組織モデルは「仕組み化(定型)」され、命令のタイプも「タスク型」で反復的なものでした。また、仕組み化するために規模がものを言うケースが多かったこともあり、判断は中央で集中的に行う「上位判断」でした。この場合、管理の性質は「確実性への対処」です。私はこれを「コントロール」と定義しています。

一方、VUCAの度合いが高ければ高いほど、先を正確に予測して計画的に取り組むことが難しい。この場合、組織をできる限り「フラット化」し、柔軟なコミュニケーションスキームをとる方が有効とされます。また、命令は具体的なTo Doで示すことが難しいため「ミッション」を共有する。さらに現場の状況に応じた各人の判断に基づき行動してく(させていく)必要があります。このため、管理の性質は「不確実性への対処」と言えます。私は従来のコントロールと区別する意味合いも踏まえて(狭義の)「マネジメント」と定義しています。

全ての組織が不確実性の高いことに取り組む訳ではありません。しかし、VUCAの度合いが低いケースに用いられてきた管理(コントロール)だけで上手くいく組織は減ってきているのは間違いない。特に新商品やサービス、新規ビジネスの企画・立上げなどを推進する場合、管理の性質を限りなく「マネジメント」にシフトしていく必要性が高いと考えています。

蛇足ですが、VUCAのフレームで捉えると、左上寄りの領域に該当するケースには「コントロール」が、右下寄りの領域に該当するケースには「マネジメント」が有効と言えます。

<図>

前者は標準化に基づき、計画と基準との差分をモニタリングするため、PDCAサイクルに基づく管理を行うためです。

逆に、後者で用いる「マネジメント」にPDCA(サイクル)はフィットしない。その際に有効なサイクルとして着目されているのが「OODA(ウーダ)ループ」です。

※今回はOODAループのご説明は割愛させて頂きます。もしご興味ある方がいらっしゃれば、本ブログの第15回(リーダに求められる行動特性の変化)をご覧頂ければと思います。


私は、ここまで論じた「管理対象(の拡張)」とその「管理スタイル」の変化に加えて、もう1つ大きな転換が生じていると考えています。それは「他社の捉え方」です。組織機能として強化されていた類似製品を提供している競合他社をベンチマークすることよりも、自社にない資源を持つ企業の検知・協働に注力していくための組織機能です。

日本企業は行き詰まり感が強い。また、自社資源の強化(レバレッジ戦略)だけで上手くいった「モノ」の時代から、顧客体験を見据える「コト」の時代にシフトしている。このため、VUCAの時代と言われる状況下ではあるものの、新たな付加価値を生み出す挑戦的な取り組みが強く求められているためです。

このため、コントロールからマネジメントへの管理スタイルの拡張に加えて、他社との「競争」から「協働」に目を向けた組織機能の見直しが必要です。簡単に言うと、他者資源とのコンビネーションによる新サービスや事業の創出機能です。

<図>

私はこの競争から協働への移行に関しても、管理の意味合いが変わってくると考えています。上の図で言う左下の「コントール×競争」ではなく、右上の「マネジメント×協働」に求められる部分です。ある意味左下で培われてきた管理スタイルを一度取り払う必要がある(経営学では、一度学んだことを一旦ゼロベースにする取り組みであるため、リカレントではなく、アンラーンと表現します。従来の常識を非常識と捉え直し、先入観を取り払う学習です)。

この領域で活発に議論されているテーマの1つに「マネージャ(特にミドルマネージャ)層の役割の変化」があります。一言で言うと従来の「マネージャ」という役割から、「ピープルリーダー」にシフトする必要があるというものです(下の図ご参照)。

<図>

上の図で比較している通り、かなりの違いがあることが分かります。リーダーシップ論の領域で論じられてきた「サーバント・リーダーシップ」や「シチュエーション・リーダーシップ」に近いスタイルが求められると感じています。

この点、「どうすべきか?」はすぐに分かった気になります。しかしながら、なかなか上手くいきません。マネージャ層の認識論や人間性と言ってしまうと議論になりづらくなりますが、そうした部分に踏み込んだ対策が必要だと考えています。私がいろいろ思い悩んでいたときに、組織心理学者のアダム・グラント教授の著書「Think Again」に出会いました。そこで論じられている内容は、「思考のサイクル」です。

一般的に仕事ができるからこそリーダに、マネージャに抜擢される。しかし、そうした場合「過信サイクル」に陥りやすい(これはこれで重要でもある)。でも、これだけだと自らの判断に合致する情報や報告のみを求めてしまいます。ここを「再考サイクル」に意識的に切り替えることを推奨されています。とにかく謙虚さを維持し、情報を(そして自分の判断を)常に懐疑的に捉える。

<図>

エッセンスは「自分を疑う」こと。そして、その能力こそ、『最強・最大の知性だ』との主張です。「なぜ自分の見解が正しいのか」ではなく「なぜ自分の見解が間違っている(かもしれない)のか」を常に意識する。ダイバーシティ&インクルージョンを推進する組織が増えていますが、このような組織のマネージャであればあるほど、こうした心構え・意識が意味を持つ。そう考えています。