◆第33回(問題の構造を探求する)

仕事ガラ組織における「課題の分析」や「解決策の立案」に携わらせて頂く機会があります。私は以前から前者の「課題の分析」こそ重要だと考えています。表面的な現象ではなく、その背後にある原因をしっかりと見定める部分です。と言うのも、解決策の立案から参加した際に、その解決策が課題の原因ではなく表面的な現象の解消を狙うものや、原因から派生している副作用に対処するものになっているケースがあると感じているためです。やはり真の原因を特定して、その解消を図っていくのが有益だと思います。

この原因を分析する手法は多々ありますが、私は「システム思考」を用いるアプローチをお勧めしています。この「システム思考」は大きく分けると、システムダイナミクスの定性分析手法を指す場合と世の中をシステムとして捉え「システム」「情報」「制御」を柱として課題解決を図るための思考法全体を指す場合があります。ここでは後者を指しています。簡単に言うと、分析対象(これをシステムと捉える)を規定し、その中にある変数を抽出した上で、その変数間の関係性をループ図で描出するアプローチです。

一般的な基本パターンは「システム原型」として定義されています。一言でいうと個人や職場、社会など、さまざまな分野で共通してよく見られる問題を引き起こしている一般的なシステム構造のことです。システム思考で構造を整理、説明するときに用いられる言葉です。具体例に、以下のような「問題のすり替わり」などがあります。

<図>問題のすり替わり

既存顧客との関係性を重視せざるを得ず結果として新規顧客の開拓が疎かになりやすいケースや、ワークスタイル変革を推進する際に陥りやすい問題の構造が当てはまると思います。

このシステム思考を用いて課題を分析する前提に、『繰り返し起こる問題は構造から生み出される』という考え方があります。分析対象全体の因果関係を“構造的に”可視化し、問題を体系的に捉えることで、正しい解決策の立案につなげることが狙いです。

今回、このシステム思考を適用する際の基本アプローチをご紹介します(以下の図ご参照)。

<図> システム思考の基本的なアプローチ例

大きく5つのステップで進めていきますが、最初の2つのステップは分析対象の定義です。全体を俯瞰しながら、問題現象のどの範囲を分析対象とするかを定義します。時間軸と空間軸(関係するステークホルダー)の明確化と言えます。

分析対象を定義した上で、その“システム”を動かしている変数を抽出していきます。抽出方法として、さまざまな手法がありますが、ここでのポイントは(昨今のダイバーシティ&インクルージョンの観点も踏まえて)幅広い視点から叡智を集めることだと考えています。4つ目のステップとして、因果関係の分析を行います。抽出した変数間の関係性をループ(因果関係)に基づき整理していきます。この整理を進める中で、漏れていた変数の追加や変更も並行して行っていきます。

最後が仮説構築です。各変数とその因果関係を体系的に鳥瞰しつつ、原因についてさまざまな角度から考察していきます。一見難しそうに見えますが、繰り返し行っていく中で実行者の習得度合いが高まり、それ程の期間を経ずして提起される「仮説の質」が向上していくことを体感しています。

昨今、VUCAの時代と言われるように見通しを立てづらい経営環境にあります。ゆえに何をどこまで考えておくべきかという点に悩まれている方が増えています。今回、「システム思考」について説明させて頂いたのは、そうした状況だからこそ、複雑な状況を構造的に捉え理解を深めることが、今後の対策検討にとても有益だと考えているためです。

また企業の経営環境も、経済合理性への偏りが見直され、環境や従業員、取引先と共存共栄していくバランスが求められるように変化しています。この点でも、「システム思考」を用いて全体構造を可視化した上で、そこに様々な立場の多様な視点を取り込んでいくことができる。この観点からも、とても有効なアプローチになる。そう考えています。