◆第41回(データドリブンへの移行)

人的資本への着目度が上がっています。競争優位の源泉がモノ自体からコトの提供力にシフトしているためだと考えています。人の知恵やアイデア、そしてその改善サイクルのスピードが重要になっている。

ただ、それ以上の意義に企業の継続性(サステナビリティ)確保がある。競争優位の観点に加えて、20世紀以降、重要な資源(の比率)がモノからヒトに移行している。このため人的資本に投資して、この強化をはかることこそが、今後の企業の持続性のポイントになるという考え方です。

もともと日本はバランスよく両方に投資をしていました。しかし、後者(人的資本への投資)は経営層による計画的なものというよりも、現場レベルの愛社精神などに依存した現場の自発的な活動になっていました。1990年代以降(すべての企業とは言わないまでも)愛社精神を破壊する方向に舵を切ってきたため、その根底が崩れてしまい、うまく機能しなくなっている。このため、米国型の経営管理手法を導入するなら(既に導入している企業が増えていますが)、今一度、人的資本への投資を根本から再考する必要性があると考えています。

人的資本への投資を行い、企業の継続性を強化していく狙いの1つに「組織の生産性」向上があります。個々人の能力も重要ですが、組織としての能力は(ヒトが入れ替わっても)継続性があるためです。

この取り組み状況や効果などを可視化するための指標が、国際標準であるISO30414、経産省や内閣官房などからでているレポートで細かく規定されています。弊社では、もう少し大きな文脈で捉え、分類しています(下図ご参照)。

元来の組織の生産性に影響を与える要素として、マイナスに機能する「効率の悪い組織運営」があり、逆にプラスに機能する「個人&組織への投資」、および「エンゲージメント(意欲)向上」がある。これらのプラス・マイナスされた結果が実際の組織の生産性になっているという考え方に基づくものです。

特に大企業だと大企業病ならぬ官僚主義が蔓延り、1つ目の「効率の悪い組織運営」に陥りやすい。このマイナスを回避するために、業務改革を継続することで効率化が進められています。

2つ目の「個人&組織への投資」は、これからの採用・育成の在り方を見定めて、人事制度や教育・研修環境を再整備していく部分です。多様なキャリアオプションを策定するとともに、自発的な学習や外部と連携した学び・気づきの場づくりが行われています。

3つ目の「エンゲージメント(意欲)向上」は、会社の存在意義や提供価値を明確化するとともに、社員に共感してもらうことで、会社への貢献意欲を高めていく取組みです。現在は多くの企業でパーパス浸透後の継続的なフォローアップを行うべく、上長との1on1ミーティングや経営層と現場をつなぐタウンホールミーティングなどが開催されています。

もちろんまだ始まったばかりでもあるため、人的資本投資に関する果実をどう意義づけ、どのような実行単位で推進していくかは各社各様です。一方で、上記のフレームは基本的に人的資本投資の取組み全容を包含しているため、自社で進めていく際のアプローチ例として参考にして頂ければと思います。

弊社はもともと1つ目の(マイナスに機能する)「効率の悪い組織運営」を見直すご支援に注力しておりました。その取り組みの一環として(人的資本という言葉が使われる前から)組織能力に着目し、この観点に基づいた『組織特性診断サービス』を提供しております。ITなどの効率化ツール導入(必要要件)と並行して、制度やルールなど組織資本を見直す(十分条件)ことが、狙ったIT投資の効果創出に必要だという考えに基づくものです。

こうした背景もあり、現在は「エンゲージメント(意欲)向上」に関するご支援を強化しています。図に記載した通り、社員に会社のパーパスに共感してもらうことで、会社への貢献意欲を高める取り組みの部分です。今後、上場企業は、この可視化ならびに対外的な公表が求められる点も踏まえています。弊社では従業員エンゲージメントを測定するフレームワークを開発するとともに、継続的にモニタリングする仕組みをご提供しています。

また、エンゲージメントを測定・分析するために得ている各種のデータは、事後的に有益な活用が想定され、先進的な企業ではその実証検証が始まっています。

この点、マーケティングには「外向き(エクスターナル)」と「内向き(インターナル)」の2種類があります。“顧客”を深く理解して必要な打ち手を考えていく取り組みが「エクスターナルマーケティング」であり、“社員”に対するそれが『インターナルマーケティング』です。これまで各社が取り組んできた一般的なマーケティング活動は、エクスターナルマーケティングであり、これと同様に、社員向けのインターナルマーケティングに関しても、傾向データを蓄積して有効に活用していくことが求められている。そう言い換えられると思います。

また、人的資本経営の導入に関して、経産省による伊藤レポートでも繰り返し論じられているデータドリブンなマネージメントへの布石にもなります。データに基づく客観的な評価を、これまで感覚的に実施してきた判断と照らし合わせることで判断精度を高めていく。クラウドやビックデータ、さらには昨今のAIしかり、技術の進化も後押ししている。そう考えています。