◆第42回(最強・最大の知性)

企業の提供価値がモノからコト(顧客の消費体験)に移行しています。このため顧客を知り、そこで得た情報を組織内の学びにつなげる「トライ&ラーン」へのスタイル変革を支援しています。リスク感度が高すぎてあまりにもトライせず、何も学ばない状況は組織の成長を促さないと考えるためでもあります。

職場のリカレントな環境(学び場)づくりに向けた「現場再生」です。私はこの取り組みを「チームビルディング」(共感する組織づくり)、「チームエンゲージメント」(自走する組織づくり)、「チームエンパーワ―メント」(学習する組織づくり)の3つのステップで展開することをお薦めしています。

今回は、このような環境づくりに向けて必要となる、そして変化が求められているマネージメント層の役割について考えてみたいと思います。

前提認識に顧客基点への転換に加えて、変動性の高い社会・ビジネス環境もあります。一般的によく言われる「VUCAの時代」です。過去の経験則から状況を正しく認識でき、行動の結果も予測できる時代から、状況認識・行動の結果予測ともに、難しいという状況認識を指しています。

この認識をもう少しブレークしたものが以下の図です。

<図>

 

実際にビジネスに取り組む際、自社がやろうとしていることが4象限のどれに該当するものなのかを識別しておくことはとても重要だと考えています。逆説的に言えば右下の「曖昧」の領域は、リスクマネージメントで言うところの「想定外」とされやすい部分です。けれども、未来のビジネス化を見据えて挑戦すべき領域とも言え、その場合「想定内」として取捨選択し、重点的に管理していく必要性がでてきます。

その際、組織に求められる特性は大きく変わります。同じく、管理の性質も変わってくると考えています(下の図ご参照)。

<図>組織特性と管理の性質

従来はVUCAの度合いが低かったこともあり、組織モデルは「仕組み化(定型)」され、命令のタイプも「タスク型」で反復的なものでした。また、規模(スケール)がものを言う時代背景もあり、判断は中央で集中的に行う「上位判断」でした。この場合、管理の性質は「確実性への対処」です。私はこれを「コントロール」と定義しています。

一方、VUCAの度合いが高ければ高いほど、先を正確に予測して計画的に取り組むことが難しい。この場合、組織をできる限り「フラット化」し、柔軟なコミュニケーションスキームをとる方が有効とされます。また、命令は具体的なTo Doで示すことが難しいため、活動の根底にある「ミッション」を共有する必要性が高まります。さらに現場の状況に応じて、各人の判断に基づいて行動してく自発性が求められます。このため、管理の性質は「不確実性への対処」と言えます。私は従来のコントロールと区別する意味合いも踏まえて(狭義の)「マネージメント」と定義しています。

全ての組織が不確実性の高いことに取り組む訳ではありませんが、VUCAの度合いが低いケースに用いられてきた管理(コントロール)だけで上手くいく組織は減ってきているのは間違いありません。特に新商品やサービス、新規ビジネスの企画・立上げなどを推進する場合、組織の管理に「マネージメント」を用いていく必要性が高いと考えています。

この管理の性質をVUCAのフレームで捉えると、左上寄りの領域に該当するケースには「コントロール」が、右下寄りの領域に該当するケースには「マネージメント」が有効と言えます。

<図>

前者は標準化に基づき、計画と基準との差分をモニタリングするため、PDCAサイクルに基づく管理を行うためです。逆に、後者で用いる「マネージメント」にPDCA(サイクル)はフィットしない。その際に有効なサイクルとして着目されているのが「OODA(ウーダ)ループ」です。

※今回はOODAループのご説明は割愛させて頂きます。もしご興味ある方がいらっしゃれば、本ブログの第15回(リーダに求められる行動特性の変化)をご覧頂ければと思います。

マネージメント層の役割は、ここまで論じた「管理対象」とその「管理スタイル」の拡張に加えて、もう1つ大きな転換が生じていると考えています。それは「他社とのCollaborationを推進する機能」です。組織機能として強化されていた類似製品を提供している競合他社をベンチマークすることよりも、自社にない資源を持つ企業の検知・協働に注力していくための組織機能です。

日本企業は行き詰まり感が強い。また、自社資源の強化(レバレッジ戦略)だけで上手くいった「モノ」の時代から、顧客体験を見据える「コト」の時代にシフトしている。このため、VUCAの時代と言われる状況下ではあるものの、新たな付加価値を生み出す取り組みが強く求められているためです。

その際、「コントロール」から「マネージメント」への管理スタイルの拡張に加えて、他社との競争から協働に目を向けた組織機能の見直しが必要です。他者資源とのコンビネーションによる新サービスや事業の創出機能です。

<図>

私はこの競争から協働への移行に関しても、管理の意味合いが変わってくると考えています。上の図で言う左下の「コントール×競争」ではなく、右上の「マネージメント×協働」に求められる部分です。ある意味左下で培われてきた管理スタイルを一度取り払う必要がある(経営学では、一度学んだことを一旦ゼロベースにする取り組みであるため、リカレントではなく、アンラーンと表現します。従来の常識を非常識と捉え直し、先入観を取り払う学習です)。

まとめると「顧客基点への転換」、「VUCAという時代背景」に対応するには、コントロールではなくマネージメントが必要。加えて、競争ではなく共創、すなわち他社との協働を意識的に強化していくことが求められています。この結果として、マネージメント層が担うべき役割が大きく変化します(下の図ご参照)。

<図>

上の図で比較している通り、かなりの違いがあることが分かります。リーダーシップ論で論じられてきた「サーバント・リーダーシップ」や「シチュエーション・リーダーシップ」に近いスタイルが求められると感じています。この点、「どうすべきか?」はすぐに分かった気になります。しかしながら、なかなか上手くいきません。このため、ここに踏み込んだ対策が必要だと考えています。

この部分の打開策を私がいろいろと思い悩んでいるときに、組織心理学者のアダム・グラント教授の著書「Think Again」に出会いました。そこで論じられている内容は、「思考のサイクル」です。一般的に仕事ができるからこそリーダに、マネージメント層に抜擢される。しかし、そうした場合「過信サイクル」に陥りやすい(過信ではなく、自信は重要)。でも、これだけだと自らの判断に合致する情報や報告のみを求めてしまいやすい。ここを「再考サイクル」に意識的に切り替えることを推奨されています。所謂、バイアスの排除です。とにかく謙虚さを維持し、情報を(そして自分の判断を)常に懐疑的に捉えるというものです。

<図>思考サイクル

エッセンスは「自分を疑う」こと。そして、その能力こそ、『最強・最大の知性だ』との主張です。「なぜ自分の見解が正しいのか」ではなく「自分の見解は間違っているかもしれない」と常に意識する。ダイバーシティ&インクルージョンを推進する組織が増えていますが、この観点からも、この心構え・意識が意味を持つ。そう考えています。