◆第43回(人的資本経営の次なるステージ)

今年度より人的資本投資に関する外部開示が上場企業に義務づけられました。この指標の1つである従業員のエンゲージメントに関して、三井住友信託銀行から「ガバナンスサーベイ」(2022)が公表されています(下図ご参照)。

<図>

レポートに基づくと、「従業員エンゲージメント向上の“取組み”」(上の図)として、企業の40%が定期的なレベル把握を行っています。但し、投資家の意向は72%ともう一段高く、着目度の高さが伺えます。

一方で実際の開示に関する調査結果(下の図)にある通り、企業の8%しか開示していません。こちらも、投資家の意向は74%と非常に高く、大きなギャップがあります。

この背景には、エンゲージメント測定の難しさ、測定を行う負担もさることながら、日本企業に見られる従業員エンゲージメントの全体的な低さも影響しているのではないかと考えています。そう考えている理由は以下のデータに基づきます。

<データ>

これは、GALLUP社から出ているレポート『State of the Global Workplace』の2022年&2023年のレポートに基づき、弊社で編集したものです。

地域別で見ても、日本の属する東アジアは下位層ですが、それをさらにブレークダウンした(右側の表)国別の従業員エンゲージメント指数で日本は5とされ、世界平均の20を大きく下回り、世界最下位とのことです。

世界の投資マネーを日本の株式市場に循環させようと岸田首相も力を入れています。このため、人的資本投資に関する報告書(統合報告書)の開示が始まりました。しかし、この開示が逆にマイナスに作用してしまうのではないか。そのような懸念を各社が感じているのではないか。そのように考えています。

ただ、開示のみにこだわらず、従業員エンゲージメントを高める取り組みを実質的に進めるべきだと考えています。この理由は下記のグラフの通り、エンゲージメントを高めることで生産性が大きく向上するためです。

<図>

日本の国際競争力低下はよく指摘されていますが、逆説的に、この従業員エンゲージメントを高めることで、日本の労働生産性が大きく高まる可能性があるためです。

もちろん日本企業も取り組みを強化しています。一般的な企業における現在の状況は、パーパス経営のトレンドもあり、企業理念などを明確化した段階です。このため、この次のステージに取り組みを進めるタイミングです。

経産省から公表された「人的資本経営に関する調査 集計結果」(2022年5月)の中で、人的資本経営の取組進捗(経営陣の認識) 全体像が開示されています(下図ご参照)。

<図>

上側の理念や存在意義の明確化はかなり進められてきた状況が分かります。一方で、赤枠で囲われた部分が進んでいません。中段の「①動的な人材ポートフォリオ」の部分です(人材ポートフォリオの定義、必要な人材の要件定義、適時適量な配置・獲得)。

これは、自社にどのような人材が必要なのか、どのようなバランスで配置したいのかといった会社と従業員の間での議論のベースとなるものと言えます。上長との1on1ミーティングが普及・浸透してきているため、このベースを明示し、対話の質を高めることが有効です。

会社として従業員への期待を明確にし、従業員の目的意識を高める。この根本的な取り組みこそが、結果として従業員エンゲージメントを高め、日本企業の生産性改善に大きく寄与する。そのようなタイミングにいる。そう感じています。