◆第45回(正しい問い)
前回のブログで、パーパス経営の本質は動機付け要因の転換であり、社員一人ひとりの仕事の”自分事化”までを継続する仕組みが重要であると発信しました。
一方で、会社のパーパスと個人のキャリアプランの整合を取るためには、一人ひとりに自己探求が求められるものの、この部分が課題(社員にとっての負担)になっているという認識も(調査レポートに基づき)ご説明しました。
この解決策の1つとして、Gallup社の診断ツールであるクリフトン・ストレングスを利用することで、自分の特質(強み)を理解し、それをいかして自己洞察することをお勧めしました。長所を活かし、伸ばす。個人のみならず、組織にも有効なアプローチだと考えているためです。ジョハリの窓とまでは言いませんが、人は意外と自分で自分を理解できていないと思うためでもあります。
また、自己探求は1度決めれば永遠に変わらないものでもありません。継続して自らの目的を探求し続けるものでもあると思います。いろいろな方と会話し、そのような悩みを抱える方は多いと感じています。2,500年前に孔子が説いた「道」と近しく、自問し続けるものなのでしょう。
特にZ世代は、このような観点を重視していると思います。帰属する企業に対して、成長機会だけではなく、パーパスや社会的インパクトも問うためです。
だからこそ、社員一人ひとりの「自己探求」を会社としてサポートする意味合いが高まっています。
その際、改めて思い起こしたアプローチがあります。Zホールディングスのシニアストラテジストを務めつつ、さまざまな活動をされている安宅和人さんの著書『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』(英治出版)で解説されているバリューのマトリクスです。
下の図が、その内容です。
<図>
ここでのイシューとは、以下の2要件を満たすものです。
①2つ以上の集団の間で決着のついていない問題
②根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題
言い換えると、「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」を意味しています。
一方の解(ソリューション)の質は、「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い」です。
これは個人のキャリアを考える上で必要となる自己探求にも応用できる優れたフレームワークだと思います。イシュー度が高い、すなわち課題の質が高い”やりがい”を感じられる領域を見出し、そこに自分のエネルギーを投下することが望ましい。且つ、その課題(イシュー)を解決するために、自らの解決力を高め挑戦していく。そうした道を見出すフレームワークになっていると感じるためです。
一方で踏み込んではいけない「犬の道」に、人は陥りやすい点も指摘されています(下の図ご参照)。
<図>
それはイシュー度を考えずに、一心不乱に大量の仕事をすることで、バリューを上げようとする道を指しています。勉強することの意味合いが「問題を解くこと」に偏ってきた点が影響しているように感じます。しかし、これでは「バリューのある仕事」は生み出せないし、社会に変化を起こすこともできない。ただ、徒労感が残るだけだと主張されています。私もまったく同感です。
では、どのようなアプローチが望まれるのか。安宅さんのこの著書の中で「圧倒的に生産性が高い人」のアプローチとして説明されている道こそ、(ビジネスに限らず)人生の選択肢を考える上でも有益なものだと思います。
それは下図の通り、まずは①「イシュー」を見極めるという点です。キャリアプランを考える際に、ここに考える時間を投下すべきだと思います。自分は何をなしたいのか、どんな社会課題を解決したいのか、どんな問題認識が強いのか、といったことを突き詰めて考える部分です。
<図>
コビー博士の『7つの習慣』にある、緊急性は低い(かもしれない)けど、重要性の高いテーマに投下する時間を確保することとも言えます。犬の道とは真逆のアプローチです。全くとは言いませんが、作業する時間(何かをする時間)を抑え、イシュー度(課題の質)を突き詰め、具体化する。結果として、自分のキャリアとして目指すべきものの解像度が高まる。何に時間を使うべきか、どこにフォーカスすべきか。基本的なことではありますが、基本だからこそ重要なポイントだと思います。
田所 雅之さんの著書『起業の科学 スタートアップサイエンス』(日経BP)の中でも、(問題を解く=解決策考える前に)Whyを何度も繰り返して課題をとことん深ぼる重要性を発信されています。基本思想は同じです。
言い換えると、「根本に目を向けた問題定義、正しい問い」の大切さです。解決策(キャリアの選択肢など)を考えるだけではなく、ガムシャラに作業だけに注力するのではなく、本質的に考えるべき問をしっかりと定義する習慣がとても大切。自己探求を行う際にこそ適用すべき。習慣化すべき。そう考えています。