◆第52回(”対話”の質)
現在おこっていることですが、デジタル化が進んでいく社会では、ビジネス自体のスピードが求められます。また、製品やサービス(モノ)による絶対的な優位性を形成することが難しくなります。こうした状況に加えて、世界とのつながりが深まることもあいまって先を見通すことが複雑化します。では、私たちはどのように対応していくべきなのか。
ここにヒントを与えてくれる書籍として、私の好きな経営学者であるミンツバーグ教授の『戦略サファリ』があります。外部世界の状況と内部組織のプロセスを2軸にとり、それぞれの状況に応じた考え方を(アインシュタインの相対性理論ではないですが)相対的に整理した大著です。
<図>
外部世界は予測可能だと考えるため、精緻な計画に基づく管理を重視する「プランニング(リス)」。逆に予測は難しい上に内部組織は理屈では動かないものと考え(あきらめ)る「コグニティブ(フクロウ)」など、戦略論を10に分類し、そのアプローチの特徴や相互作用について体系化しています。
私は現況を考えると、分類の1つである「ラーニング(猿)」が、現在の企業が取るべきスタンスだと考えています。それは、予測可能性が低いからこそ、自らが実践し、そこでの気づきをクイックに学んで組織・人のナレッジに取り込んでいく必要があると考えるためです。Try&Error ならぬ Trial&Learn です。Test&Learn とも言え、はじめから無理な判断なんかせずに、テスト(検証)結果からの学びを踏まえて、進むべき道を模索していくアプローチです。前提として、ゴールとしてのビジョンやパーパスの共有・共感が重要になります。
そのためには、従来の基本思想や制度・仕組みなどを(企業の従来慣習の程度にもよりますが)大きく変えていく必要があります。
<図>
わたしは、この中でも重要なのが(一方で放置されているのが)現場再生のためのリカレントな環境(学び場)づくりだと考えています。背景として、古き良き日本企業では能動的に現場で実践されていた。現場が勝手にやってくれた、そうした素晴らしい文化があったためだと思います。
ただ、現場の“アソビ”ならぬ“ユトリ”も減ってきているため、経営層の認識も改める必要がある。失われた30年の間に、外部からの“効率化”要求といった圧力も加わり、また人材も入れ替わり、大切にすべきものが失われてきてしまっているためです。この状況を踏まえて対応していく必要があります。
弊社では、この現場再生のご支援を行っています。
<図>現場再生(組織力の強化)に向けたステップ
詳細は割愛しますが、Stepを追って進めることをお勧めしています。それは、前のStepが、次のStepの土台として必要になると感じているためです。
※ご興味がありましたら、本ブログの第31回(マネジメントのアップグレード)をご参照下さい。エンゲージメントとの関係性も踏まえたご説明を行っています。
この取り組みのポイントは、マネージメント層の支援だと考えています。特に部下とのコミュニケーションです。結果として大きな差につながっている主因だと認識しているためです(弊社で実施しているエンゲージメント調査の結果からも有意な検証結果を得ています)。
今回、その点が分かる1例として「推論のはしご」をご紹介します。人は(例えマネージャであっても完璧ではないため)自分の考えやバイアスに縛られる傾向があります。当然、周りのノイズにも影響を受けます。
<図>
図の望ましくないリーダーのケースで言えば、自らの先入観や常識に基づき、部下(の話を聞かずに、深堀せずに)を判断してしまう。そこを図の望ましいリーダーのケースのように、じっくりと(相手を)理解するコミュニケーションが必要な点を解説しているものです。部下の言動の背景や考え方を正しくキャッチし、ともに価値を生んでいけるようじっくり登る“対話”が求められます。
このような“対話”に関して、もう1歩深く“解明”しているのが『U理論』(C・オットー・シャーマー)です。
<図>
この理論の神髄(だと私が考えるの)は、過去の経験を拠り所とできない状況において、(今まさに求められている)未来を見据えた変革を組織的に起こすための方法を実践的に論じている点です。
そして、このような取り組みを進めるエンジンはマネージメント層。マネージメント層のコミュニケーションの質です。
まとめると、環境変化のスピードが高まり、世界とのつながりも深まることで複雑化する状況に向かっている。企業は戦略サファリで言うところのラーニング(猿)のスタンスをとり、試して学ぶ(Try&Learn)ことが有効だ。このために会社の基本思想や制度・仕組みを大きく変えていくことが求められる。しかし残念なことに、並行して進めるべき「リカレントな環境(学び場)づくり」が遅れている。そうした場づくりにも目を向けて頂きたい。
そして、この取り組みでは特にマネージメント層のコミュニケーションの質が重要なポイントになる。あまたの経営研究および弊社の検証からも明らかになってきている。それは“対話”するスキルであり、マネージメント層の教育とトレーニングを強化することが必要かつ効果的と言える。そのように考えています。