◆第55回(HRテックの活用)
弊社はデジタル化(DX)が進む中で、その投資効果を高めるためには「組織能力」の強化もセットで必要だという課題認識のもとに各種のソリューションを展開しています。いい流れに、DXが道具を導入することだけではなく、文字通りDXのX(Transformation)を伴うものであるという認識の変化があります。さらに言えばITというモノとセットで、(業務は言わずもがな)我々が力点を置いている組織の能力だけでもなく、老朽化したルールや制度、働き方、社員のスキルも再考する必要があります。さまざまな社会環境の変化の影響を受けて、そうした流れにシフトしています。
その際にいつも痛感するのが、組織横断で変革を推進することの難しさです。Cスイートと言われるCxO、則ちCIO(最高情報責任者)、CDO(最高データ責任者)、CFO(最高財務責任者)、CHrO(最高人事責任者)は配置されつつありますが、その共通項となる部分があり、時によって大きなオーバーヘッドがかかるためです。それぞれのCXOは、市況や自社&競争環境の変化もあり、各々の領域で新たなチャレンジが求められる。しかしやるべきことは、それらを横断・統合して対応すべきものがほとんどです。
例えば、CHrOは従来の採用・研修、評価制度設計といった業務に加えて(これら自体の見直しも必要な上に)、ジョブ型シフト、リスキリング、人的資本開示、タレントマネジメントといった対応も求められています。一つひとつが重要で影響も大きい。これらは人事の枠組みを越えて、システムの整備やデータ・ガバナンスの整備(CIO・CDO連携)を伴い、その投資判断(CFO連携)も必要です。
その一方で、人を増員しての対応はなかなか難しい。そこに輪をかけて働き方改革の流れもあり、労働時間も制限される(これはこれで正しい)。このため、CHrOの立場から、人事関連業務のDX、あるいは適切なアウトソースを進める必要がある。業務を整理してシステムによる自動化または外部委託を行い、重点を置くべきテーマに注力していくためです。その意味では人事部門自体の役割を、さらには変革を推進する全社的なスキームを再定義するタイミングとも言えます。
この点、「人事部門×DX」のカットで、学術研究も活発です。一般的にHRテックといわれる領域です。大きく分けると、以下の4つのトピックに分けられます。
<図>
これらの動向からも分かる通り、これまでは感覚的に取り扱ってきた領域を、データで測定することで可視化し、より有効かつ適切な判断につなげていく部分に焦点が当てられています。特に評価などは人によって差がでてしまうため、こうした取り組みによって客観性を高めることで、評価される側の不満も低減できる。その意味においても望ましい方向性だと思います。
そのためにも、従来の業務はできる限りシステム化し、自動化・省力化・効率化する。その上で、よりデータドリブンに判断を検証できる仕組みを整備し、業務自体を高度化する取り組みが必要です。以下の図は、その取り組みの一例です。
<図>
人事に関わる業務は、その領域の拡張と同時並行で高度化し始めています。そのベースとすべきは「データ」。その「データ」を活用し業務の質を高めていくためには、新たなスキルも求められます。このためには、「これからの業務」に注力できる前裁きが必要になる。まずは「これまでの業務」を省力化すべく、HRテックなどをうまく利用し、「これからの業務」にリソースを割り当てられるようにする必要がある。
論理的に説明すると理解・共感が得られるものの、このようなテーマが典型的な「言うは易く行うは難し」の状態に陥っている会社が多い。分かっているのに実行できないという課題です。これは現代に限った状態でもないようです。司馬遷の『史記列伝』にある「知ることが難しいのではない。いかにその知っていることに、身を処するかが難しいのだ」という故事からも分かります。だからこそ、どう突破していくかが問われます。
一方で、大きなトレンドの変化が起こりつつあるとも感じています。企業が、貯めこんできた余剰資金をそろそろ戦略的に活用すべきタイミングだと捉え始めている、そう感じるためです。値上げ、賃上げも動き出しました。こうした流れも受けて、いよいよ戦略的な投資を行う企業が増える。これまで分かっていた(けど停滞してきた)やるべきことへの投資が活発化し、企業にも活気がでてくるのではないか。そこで人に成長機会が与えられ、成長する人も増えそう。そう前向きにとらえ始めています。