◆第57回(デジタルに適応する組織)
デジタル・トランスフォーメーション(以下、「DX」と表記)は、その解釈や認識の違いはあれども、広く使われるようになりました。そして、「従来のIT投資と何が違うのか?」「何が足りていないのか?」「どう進めていくのがいいのか?」という要求を満たすべく、さまざまな書籍が巷に溢れています。
成功事例や失敗事例、推進アプローチなどの実践的な内容のものから、産業構造レベルの転換と捉えてこれからの指針を提示しているもの、必要と想定される考え方や思想を解説しているものまで多様です。技術の変化・進展もあり、まだトライアル段階とも言えるものの、私はデジタルにうまく適応している組織には以下の特徴がみられると考えています。
①リーダーシップが(階層的ではなく)分散型の傾向
②コラボレーションと部門の枠を超えた協力が盛ん
③リスク許容度が高く、大胆で探索的傾向がある
DXに限らず、企業として継続して成長するためにも必要な要件と言えますが、これらは各々の領域ごとに論じられています。今回は、これらに関する研究成果や実践例を解説している書籍に関して、順を追って振り返りたいと思います。
まず①は、書籍『ティール組織 自分らしさを生かせる新しい働き方』(フレデリック・ラルー)、『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン)、『ホラクラシー 経営の革新』(ブライアン・ロバートソン)や、デジタル化が進む社会での働き方や組織構造の変革について、日本の視点で具体例を交えながら論じている『未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる』(尾原和啓)などがあげられます。
次に②の「コラボレーションと部門の枠を超えた協力が盛ん」に関しては、産官学連携をベースとするオープン・イノベーションの取り組みに始まり、ダイナミック・ケイパビリティに着目した研究成果が後押しし、且つ多様化する社会に対応するためにも必要との認識も相まって、着目度が上がっています。以下がこの領域の関連書籍です。
『越境する力』(安宅和人)
企業内外の垣根を越えてコラボレーションを進める重要性を論じた本。特にデータ活用やイノベーションを進める上での「越境」がどのように価値を生むのかが具体的に語られています。部門横断的な取り組みを実践するためのヒントが多く含まれています。
『新しいチームの力──コラボレーションが創造性を高める』(ピーター・G・トンプソン)
組織内外でのチーム間のコラボレーションがどのように創造性を引き出し、イノベーションを生むのかを解説しています。また、部門横断型の取り組みが成功する要因や障壁について具体例を交えて解説しています。
『組織は変えられる』(石井裕明)
組織改革における実践的な方法を解説しており、部門間の壁を壊して協働を進めるための手法も取り扱っています。行動経済学の視点を取り入れ、なぜ組織がサイロ化するのか、その問題をどう解決するのかが分かりやすく書かれています。
『チームの「引力」──個をつなぐマネジメント』(澤円)
「個」を尊重しながらも、チームとしての相乗効果を生み出すためのリーダーシップやコラボレーションの方法論について述べた一冊です。部門を超えたつながりの作り方や、その意義についても触れています。
『ミッション・ドリブン 組織の未来はミッションで決まる』(小松由紀子)
ミッションを軸に、部門を超えた協働をいかに生み出すかについて解説しています。特に、多様なバックグラウンドを持つメンバーが協力して目標を達成する方法が具体的に書かれています。
『チーム・オブ・チームズ──複雑性に打ち勝つリーダーシップ』(スタンリー・マクリスタル)
多様な専門性を持つチーム同士が連携する「チームのチーム」という考え方を提案する本です。部門横断的なコラボレーションが現代の複雑な問題解決にいかに重要かが語られています。
最後に③の「リスク許容度が高く、大胆で探索的傾向がある」と言えば、書籍『両利きの経営─「進化」と「探索」のマネジメント』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン)です。企業が既存のコア事業(進化)と、新しい成長領域(探索)の両方を同時に追求する「両利きの経営」について深掘りしています。特に、リーダーシップや組織デザインがどのように機能進化と探索を支えるかに焦点を当てています。以下がこの領域の関連書籍です。
『デュアル・トランスフォーメーション』(スコット・D・アンソニー、クラーク・G・ギルバート、マーク・W・ジョンソン)
イノベーションのために、既存事業の強化(機能進化)と新規事業の探索(機能探索)を同時並行で行う必要性を解説した一冊です。リソース配分や組織設計について具体的なフレームワークが紹介されています。
『イノベーションの最終解答』(尾原和啓)
デジタル時代の新規事業開発において、「既存事業の磨き込み」と「未知の可能性を探る」両立がどのように価値を生むかを論じています。実例も多く、現場で応用しやすい内容です。
『リーン・スタートアップ』(エリック・リース)
既存事業の改善を行いつつ、新規ビジネスの探索にどう取り組むかを体系的に解説しています。特に「最小限の製品で市場を試す」プロセスが、機能探索を効率的に行う方法論として役立ちます。
『エクスポネンシャル思考』(佐宗邦威)
新規事業や製品開発における「大胆な探索」と「着実な進化」を両立させるための思考法について解説しています。具体的な事例を交え、イノベーションを生むプロセスが描かれています。
『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』(ピーター・ティール)
特に新しいアイデアを発見し、既存の機能を超える「ゼロからイチ」の価値創造について書かれています。機能探索の重要性が中心ですが、それを既存の強みにどう結びつけるかも議論されています。
『ビジョナリー・カンパニー 2──飛躍の法則』(ジム・コリンズ)
成功する企業が、既存事業を進化させながら新たな可能性を探るバランスをどう取っているかについて、長期的なデータを基に分析しています。
以上、デジタルにうまく適応している組織が持つ3つの特徴を、それぞれに論じている書籍をご紹介させて頂きました。
いずれにしても、戦略より実行に力点が置かれる背景もあり、実行を重視するなら「プロセスが大切だよね」という考えが根底にあると考えています。
実行で重要なのは、「根本的な問題を直接解決する」という、一見もっともらしくても実はほぼ実現不可能な大施策を打つことではなく、「どこから手を打ったらよいか」を、根本的な問題に至る道筋を描きながら考え、実行に移すことだと考えています。重要な問題を指摘し、それに取り組めと言うのは、ある意味簡単なことです。それでは組織と言うものは動かない。組織が動き出す「きっかけ」あるいは「急所」を探し、そこに小さくても次につながる実効性のある杭を打ち込むことこそが実行の「肝」だと考えるためです。
2024年もいよいよ年の瀬です。弊社も試行錯誤しながら、コーポレート・スローガン「DXを制度・風土・人の成長につなげ、活気ある組織づくりに貢献する」に向けた挑戦を続けていきます。来年もどうぞ宜しくお願い致します。