◆第7回(ダイナミックスキル理論)

知性発達科学という研究領域があり、そこから「ダイナミックスキル理論」という理論が生まれています。ダイナミックスキル理論は、私たちの能力がどのようなプロセスとメカニズムで成長していくのかを説明してくれるものです。従来、私たちの能力は線形的に成長していくという発想でしたが、ダイナミックスキル理論では、私たちの能力は多様な要因に影響を受けながら、ダイナミックに成長していくものであるということが、実証研究から明らかになっています(領域は異なりますが、ドネラ・H・メドウズさんの「システム思考」を想起させます)。

私は、この知性発達科学の知見である「ダイナミックスキル理論」を組織能力の強化に応用できないか?と考えています。

このダイナミックスキル理論の中で、能力の「変動性」というものが議論されています。それは、例えば『私たちの能力は、変動性がなくなってしまうと成長が止まってしまう。そのため、実践に変動性をもたらすような工夫と揺さぶりが必要になる』というものです。外部環境が生み出すものから個人が無意識に生み出す変化に関して、自覚的となり、その変化を意識的に取り入れることは、変動性が確保された実践につながる。それが成長を促す、正確には成長を止めないポイントになるという主張です。環境の変化に対応するために(という文脈で)、組織や社員の意識を変えると言うと外発的かつ受け身に感じます。他方で、変化を受け入れることが「能力開発のため、成長を促すため」と捉えると、内発的かつ自発的なものになる。この点に、この議論の意義を感じます。

また、ハーバード大学教育大学院のカート・フィッシャー教授は、能力を開発するための羅針盤として「成長モデル」を提示されています。なお、成長プロセスの研究対象は「器」派と「能力」派に分かれますが、フィッシャーさんは「能力」派の方です。この研究の中で、以下のチャートを提示されています。縦軸に「能力レベル」を、横軸に「年齢」をとったものです。

<用語の補足>
  ・最適レベル: 他者からの支援によって発揮される、自分の最大限の能力レベル
  ・機能レベル: 他者からの支援なしに発揮される、自分の最大限の能力レベル
  ・発達範囲: 最適レベルと機能レベルのギャップ

フィッシャー教授はこのチャートに基づいて、『私たちは年齢を重ねるごとに、発達範囲が広がり、他者からの支援がより必要になる。より高度な能力を獲得するためには、他者からの支援に基づいて最適レベルを発揮していく実践を行うことが重要になる』とおっしゃられています。

私はこのチャートから(個々人の能力強化の大切さもさることながら)改めて「組織能力の強化」の大切さを感じました。人は年齢を重ねるとともに、「機能レベル」が高まっていきますが、「最適レベル」は、それ以上に高まっていく。その差が「発達範囲」と言われ、それを埋め合わせるためには、他者との協働や外部との連携がポイントになる。これは、「個人の能力」では突破できないことを「組織の能力」を高めることで対応できることを説明している(少なくとも援用している)と感じるためです。

※ダイナミックスキル理論に関しては、加藤洋平氏の著書「能力の成長」がお薦めです