◆第9回(組織のルーティン)
組織の成長を促すメカニズムに関して、さまざまな研究が行われています。中でも組織の成長は「組織のルーティン」で決まると主張しているのが、認知心理学に基づく研究者たちです。今回はこの理論について、論じたいと思います。この「組織のルーティン」とは何か。人それぞれに定型化している習慣があるように、組織にも同様の習慣がある。すなわち組織のルーティンとは、「組織が繰り返し行っている行動のパターン」です。
個人の認知には限界がある。それを経済学の世界で「限定合理性」と言います。人間は合理的でありたいと考えている(人が多い)ものの、必ずしもすべてを合理的に判断して生活しているわけではない。経済学ではもともと合理的な人間しかいないという世界観で分析が進められていたものの、その理論に限界があった。ここをより現実的に捉える考え方だと言えます。そしてそれを組織に応用して考える。個人同様に組織でも認知の限界があり、これを打破していく必要がある。このために、組織が得た知を組織が処理できる能力を越えないように、負担がかからないように組織に埋め込む必要がある。その手段の1つが、組織における「標準化された手続」です。そして、この実践が「組織のルーティン」と言えます。
組織における認知の能力を上げることで、組織が新たな知を吸収していくことができる。結果として「組織の成長」が進む。これが組織のルーティンが組織の成長を促すと考える基本ロジックです。他方で前述の通り、組織のルーティンは「組織が繰り返し行っている行動のパターン」。このため、そのルーティンだけに組織が依存するようになると「組織が硬直化」してしまいます。結果として、組織の成長を止めてしまう要因にもなり得る。言い換えると、組織のルーティンは『成長要因』にも『成長を拒む要因』にもなり得るものだと言えます。このため、この原因に関する研究も多数おこなわれています。日本に限らず世界中の企業で見られる特徴は「(時間制約などの)外部ストレス」です。作業(処理)を進めること自体が仕事であればあるほど、限られた時間配分を作業にあててしまう、あてざるを得ない。思考停止とまでは言わなくとも、止むを得ずのケースも含めて前例踏襲型で日々のオペレーションを進めざるを得ない。この本質的な対策としては、組織の成長を促す「進化するルーティン」づくりが重要です。
加えて、組織の硬直化の対象を「リソース(経営資源)」と「ルーティン」に分類して考察している研究があります。上手くいっていない企業の多くは、予算や人員といった「リソース」を柔軟に再配分しているものの、「ルーティン(の硬直化)」には手を打っていない、というものです。リソースのみならず、変化を拒む要因になっている「ルーティン」にこそ目を向け、これを直視した対策が必要と言えるのではないでしょうか。さらに言うと、これまでの行動=ルーティンがうまく機能して、いい成果を上げていた企業であればあるほど、そのルーティンが組織の慣性を硬直化させていないか。組織の感性は根深いがゆえ、変革に時間を要する。しかし、この点を踏まえた「進化するルーティン」づくりが、いまこそ必要ではないかと考えています。