◆第10回(デジタルに適応する組織)

デジタル・トランスフォーメーション(以下「DX」と表記)という言葉がTVコマーシャルを含めて、あちこちで聞かれるようになっています。そして、「どうすればいいのか?」という要求を満たすべく、さまざまな書籍が巷に溢れています。

主に、成功事例や実践方法に関するものが多く、まだトライアル段階ではあるものの、デジタルにうまく適応している組織には以下の特徴がみられます。

  ①リーダーシップが(階層的ではなく)分散型の傾向

  ②コラボレーションと部門の枠を超えた協力が盛ん

  ③リスク許容度が高く、大胆で探索的傾向がある

これらは個々の領域別でもあちこちで論じられています。①はまさに書籍『ティール組織』等で、②はオープン・イノベーションの取り組みやダイナミック・ケイパビリティの研究で、③は書籍『両利きの経営』やリーン・スタートアップ、デザイン・シンキング等のアプローチ論、その実践を通して、認識されている方も多いと思います。

2000年代半ば以降、戦略コンサルタントの方々から「戦略よりも実行に比重が移る」、「もともと日本が強いオペレーションの強化こそが、これから重要だ」といった発信が増えていました(私が個人的に、この観点に共感したため、強く印象づいただけかもしれませんが)。私は上記のデジタルにうまく適用している組織の特徴が、この「オペレーション(実行)を重視する組織に求められる要件」と限りなく類似している、共通的な要素だと感じています。当時そうしたオペレーション重視派の方々が、取るべき戦略(のオプション案)として語られていた内容が、「先の見通しが難しくなってきているから、精度を上げることに時間を費やすよりも、もっとライトなものに留めよう」。そして「実験と試行錯誤を経験させる『上手な失敗のマネジメント能力』を強化していこう」といったものだったためです。

その上で「組織的コミュニケーション」にフォーカスが置かれ、まさしく上記3つの特徴に類似するアプローチ論が議論されていました。いずれにしても、戦略より実行に力点をおき、実行を重視するなら「プロセスが大切だよね」という流れがありました。

しかし、例えば「③リスク許容度が高く、大胆で探索的傾向がある」をとっても、なかなか進展していないように感じています。簡略化して表現すると「アイデアを速く試し、そこから学び、結果から得られた知見を迅速に評価し、軌道修正していく」取り組みです。この重要性に気付いている人は多いものの、こうした取り組みを組織的に行うには課題というか制約が強いためだと感じています。

一方で進んでいる一部の企業では、挑戦を即す(=失敗を許容する)制度やルール・仕組みを導入するとともに、現場に権限を委譲し、挑戦させています。また、デザイン・シンキング等のアプローチを組織的に学び、「PDCA」ではなく大胆に「DCAP」にプロセス変更しながら試行錯誤されている企業もでてきています。

実行で重要なのは「根本的な問題を直接解決する」という、一見もっともらしくても実はほぼ実現不可能な大施策を打つことではなく、上記のように「どこから手を打ったらよいか」を、根本的な問題に至る道筋を描きながら考え、実行に移すことだと考えています。重要な問題を指摘し、それに取り組めと言うのは、ある意味簡単なことです。しかし、それでは組織と言うものは動かない。組織が動き出す「きっかけ」あるいは「急所」を探し、そこに小さくても次につながる実効性のある杭を打ち込むことこそが実行の「肝」だと考えるためです。

2021年という新たな年がはじまりました。弊社も試行錯誤しながら、コーポレート・スローガン「DXを制度・風土・人の成長につなげ、活気ある組織づくりに貢献する」に向けた挑戦を続けていきます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。