◆第14回(DXの成否を分ける人材群)

近年、DX推進の動きは日本でも加速しています。業務のデジタル化を促進するテクノロジーの導入、テクノロジー基盤の刷新など、その動きは一層活性化しています。しかしながら、必ずしも成功している企業は多くないというのが実態のようです。

DXの成功に向けて越えるべきハードルや準備しなければならないことは多々あります。中でも最近、この部分に大きな変化が見られます。背景に、DXが「デジタル化する」という特定のゴールを目指すプロジェクト的な取り組みではないと多くの企業が気づいてきた点があると思います。「デジタル化する」だけではなく、継続的にITを活かした変革を進める組織的な能力が必要。組織が「デジタルになる」とも言えます。

より正確に捉えると、DXは技術導入によって得られたアドバンテージを用いて価値提供の仕組みを変え、ビジネスの構造を変えることで、新しい競争基準の中で優位性を得るという、一連の変革ストーリーと言えます

これらの結果として、取り組み範囲やアプローチも大きく変容してきています。そして、人材や組織の側面に関する改革を伴う、より本質的な取り組みが増えてきています。今回は人材マネジメントに焦点を当てて、日本企業におけるDX推進の成否を分ける人材群について、論じたいと思います。

「DXを推進したいけど、担当できる人材が社内にいない」「社員にデジタルスキルを身に付けさせたいが、何から始めたらいいのか分からない」といった声を、よく耳にします。DXを推進するには、既存の人材とは異なる新たなスキルセットを持つ人材、いわゆる「デジタルタレント」が求められます。しかしながら、そうした人材が必要だという認識は一致していても、そもそも具体的にどういう人材が求められるのかが明確でないケースが多くあります。

また、ある程度イメージがあっても、いかに自社に引きつけ、獲得するか、そしていかに育成し、パフォーマンスを発揮してもらい、報いていくかという、デジタルタレントを活用し、DXを推進していくための基盤が脆弱であることも同様にありがちではないでしょうか。このように、既存社員との業務特性の違いから、人材マネジメントサイクル(求人・採用、配置・育成、評価・処遇など)におけるあらゆる領域でさまざまな課題が顕在化しつつあります。

課題領域が広範にわたるため、人材マネジメント全体のアップデートが求められますが、まず取り掛からないといけないのは、「人材要件の明確化」です。採用するにしても社内で育成するにしても、そもそもどういう人材を必要とするのかを整理しないまま、やみくもに進めていくのは得策ではありません。

人材要件は、「目的(何をしたいか)」に即して整理する必要があります。DXといっても、企業により捉え方や位置づけはさまざまですが、デジタルを「テコ」に新しい収益の柱として事業を創造するケース、既存のビジネスモデルをデジタルの力で圧倒的に強化するケースの2つに大別できます。多くの企業にとって、既存のビジネスを変革する方がより成功率が高いため、新規事業創出と既存事業変革のバランスをうまく取っていくことが肝要です。DXにおけるこうしたプロジェクト・ポートフォリオを踏まえたデジタルタレントは、大きく①デジタル人材、②変革リーダー、③変革フォロワーに分けられると思います。

①デジタル人材

DXの企画・推進をリードし、デジタルスキルを武器にサービス開発や新規事業構想を行う人材です。人材市場における希少性が高く、社内において充足しているケースはまれです。また、そのスキルの専門性により社内育成は難易度が高いため、外部からの採用や契約による調達を見据える層です。

②変革リーダー

デジタルを活用した業務改革や変革の推進を担うのが変革リーダーです。基本的には既存事業を対象とし、課題設定・課題解決力を武器に社内の関係者を巻き込みながら変革を実現していきます。デジタルに関する一定以上の知識・スキルは求められるものの、社内に潜在層はいることが多く、適切に選抜し、育成することで、社内充足は十分可能であると言えます。

③変革フォロワー

デジタルによる業務・システムの変革に適応し、既存事業の改革と運営に携わるのが変革フォロワーです。既存事業の中心的人材であり、社内で基本的に充足します。組織・部署内の変革を定着させる役割を果たすため、デジタルに関する専門知識というよりは、適応力やコミュニケーション力がより求められるため、意識向上や底上げによる社内充足が見込めます。

各社の人材マネジメントにおいて考慮すべきなのは、多数を占める変革リーダーや変革フォロワーと言えます。デジタルによる変革を推進する際に中心的な役割を果たすこの人材群を、社内で正しく定義した上で発掘・育成し、活躍させることがDX推進の成否を分けることになると考えています。