◆第15回(リーダに求められる行動特性の変化)
今日の企業経営では、「計画」以上に「スピーディーな対応」が重視されるようになりました。昨今の新型コロナウイルスの問題に代表されるように、現在の企業経営は想定外の不確実性に翻弄されるのが特徴となってきているためです。確実な状況下においては、計画を立てて進捗状況をチェックし、必要に応じて軌道修正すればよい。一方、不確実な状況のもとでは、詳細な計画立案はほとんど(とまでは言はないまでも)意味をなさなくなってしまう。場合によっては制約・足枷となってしまう可能性もあるためだと思います。
この点、改めて驚いたのは、米国アップル社の取り組みです。彼らは3カ月計画を事業計画といい、1カ年計画を中期計画と呼ぶそうです。もちろん置かれている業界特性もありますが、あの規模の企業であっても、「計画」と「スピーディーな対応」の両立を試行している点を強く感じます。日本企業で一般的な3カ年計画、それをブレークして作成する年度計画、それに基づいて行動していくメカニズムとは、相当にスピード感が異なってくると考えるためです。
こうした状況認識に基づき、組織の対応力を上げるさまざまな取り組みが行われています。その1つに米国海兵隊でも採用され顕著な成果に繋がっている「OODAループ」があります。「観察(Observe)⇒情勢判断(Orient)⇒意思決定(Decide)⇒行動(Act)」という一連の活動(ループ)です。従来からあるPDCAサイクルと異なる点は、計画を出発点としていないという点です。しかもミッションオリエンテッドであり、それを達成する手段は上司からの指示も含めて行わないという考え方をとっています。現場の第一線が、自発性・創造性を駆使して、ミッションを達成するための手段を発見し、即座にそれを実行していく。ある意味、PDCAサイクルが想定する上意下達型の考え方と真逆です。
OODAループの考え方や各々の活動に関する説明は割愛させて頂きます。もしご興味があれば、『OODA 危機管理と効率・達成を叶えるマネジメント』(徳間書店)、『OODA LOOP(ウーダループ)』(東洋経済新報社)、『OODA Management: 現場判断で成果をあげる次世代型組織のつくり方』(東洋経済新報社)などがお薦めです。
このOODAループの各活動はそれぞれが重要ですが、中でも特に重要な活動は、「情勢判断(Orient)」だと思います。分析にかける時間も大切ですが、それによって行動が遅れてしまっては本末転倒となるためです。そしてある研究レポートで「経験に基づく直感的判断が95%を占める」ことが報告されています。
このように書いてしまうと、(経験ももちろん重要ですが)経験のみを偏重してしまうことになるため、これを科学的に伸ばす方法の研究もなされています。簡単に説明すると、リーダを「発見力型」と「実行力型」に分類し、各々の特性を比較して、伸ばすべき能力を洞察する取り組みです。これまで優秀とされるリーダは、後者に類型され、計画や分析を重視し、細かいところまで目を配り、問題があれば即座に気づき対応するタイプでした。一方でOODAループを回す際は、発見力型のリーダが重要になる。そうした人はどのような傾向があり、どういうコンピテンシーを高めていくのが有効なのか、という研究です。
これまでの検証結果では、ポイントが「行動特性」に集約されています。実行力型の行動特性が、「計画、分析、細部重視、規律」であるのに対して、発見力型のそれは、「観察、質問、実験、人脈、関連付け」とされます。コンピテンシー目線で整理すると「日ごろから人脈を広げ、そこで質問することで多様なアイデアを収集し、関連づけて実践していく」タイプです。行動範囲が広いからこそ、多様な観察眼が磨かれる。そして、情勢判断をする際に豊富な人脈から得られた知識が暗黙的に機能する=直感が働く、と捉えることができるのかと解釈しています。外交的で、現場を積極的に回って足で情報を稼ぐ行動派といった行動特性とも言えるかと思います。
不確性に翻弄される時代であるため、組織運営に関する方針もそれに合わせて修正が求められています。その際のポイントの1つに「リーダに求める行動特性」がある。そう考えています。