◆第18回(アプローチの変化による今後の課題)
企業におけるIT投資のアプローチは、時間の経過とともに変化してきています。当然ですがこの背景には、サーバ側となるインフラ領域・アプリケーション領域のみならず、ネットワークおよびクライアント側も進化した結果、その適用領域が大きく拡大している点があります。
この適用領域の拡大に対応して、IT投資のアプローチも変化してきている。むしろ変化させなければ適切に対応できなくなってきています。以下の<イメージ図1>に基づき補足します。
<イメージ図1>
はじめは一番左の列のように、特定部門の業務を機械化することでした。基本的に業務プロセスや手順はそのまま、手動で行っていた作業を減らす自動化、またはそのサポート機能を提供する部分が中心でした。
その後次第に2番目の列のように、特定部門の業務支援から部門をまたいだ業務の効率化・迅速化にその軸足が移っていきました。但しここでも基本的には、現行の業務プロセス・手順に基づいたIT化の取り組みを行う企業が大多数でした。これが原因で、IT投資を行ってもそれ程の効果が得られない状態に陥りました。
さらにITの適用領域が拡張していきます。会社内に留まらず、取引先やお客様との取引です。ここで大きな変化が起きました。顧客視点からのプロセス最適化を伴う取り組みです。本格的に取り組む企業では、「既存の業務プロセスや手順」も見直すようになります。既存の業務を変え、システムに合わせる。IT投資の効果向上にはこうした取り組みが必要であり、有効であると認識された点が大きいと思います。
しかし、私は今後の取り組みアプローチをさらに進化させていくべきだと考えています。そのポイントは検討の「起点」と、従来暗黙の前提とされてきた「仕組み・ルール」への踏み込みです。
「起点」とは検討する順序です。従来は基本的に「暗黙の前提である仕組み・ルール」に基づいた「業務」を整理し、それに整合するようIT化を考えるという流れでした。この順番を変える必要があるという点が1つ目です。もう1つが「暗黙の前提」としてきた仕組み・ルールの見直しです。従来この部分まで踏み込んで検討することは、IT化という取り組みの中では、なかなか敷居が高かったと思います。しかし今後のIT化で、その効果をより高めていくためには、この2点を見直すことがポイントになると考えています。以下の<イメージ図2>に基づき、私の考えを説明したいと思います。
<イメージ図2>
前述した通り<イメージ図2>のオプションAが、従来の取り組み順でした。起点は暗黙の前提である「仕組み・ルール」に基づく「業務」の整理。その結果に基づくIT化の検討でした。正確に書くと、この起点となる「仕組み・ルール」は所与・前提とみなされ、見直さずに取り組むケースが大半でした。
一方、ITネイティブと言われる会社はオプションBのような順序で取り組む傾向が見られます。まずはITを起点に業務を考え、そのための仕組み・ルールを整える。ITを起点に新たな組織体を自由に設計できるため、既存企業と状況が大きく異なるためです。
では、既存の業務を多数の社員で進めているような企業では、どう取り組んでいくのがよいのか、という問が生じます。そのオプションとして有効だと私が考えているのがオプションCです。まずはITの最大活用を起点にビジネスを着想する。それと併せて、必要な仕組み・ルールの見直しを行う。その後、それに合った業務を設計するアプローチです。IT化の効果創出を確実なものにしていくためには、このアプローチに変えていく必要があると考えています。
但し、課題も多いと言えます。IT活用を起点に着想し構想を具体化する要員、それに併せて仕組み・ルールを設計する要員です。純粋なモノづくりとしてのIT化に関わる旧来の体制と比べて、やや特殊なスキルが求められるためです。また、業務の見直しを伴うために、この部分をどうクリアーしていくか。変化を嫌う現場とどう対峙していくかという点も大きな課題となります。加えて、従来の延長線ではないため、大きなリスクも伴います。このため、現時点でこのような取り組みを進めている企業は、経営トップ自らが旗振り役を行うような企業に限られています。凡そはオーナー系企業です。ただ、一部の大手企業の中にも大きな決断の元、こうした取り組みをはじめる会社がでてきました。「IT投資による効果向上」を生業とする私にとっては、とてもいい方向だと感じています。
もちろんリスク許容度には限りがあります。このため現時点では、いくつかのファンドが試みているように別会社を設立して、そこでまずは小さくトライアルしていく。試行錯誤していく。そうした進め方が有効だと考えています。