◆第19回(レッスンラーンドの風土)

 弊社は日本企業が行うIT投資により得られる効果が、十分に得られていないという課題認識に基づき活動しております。着眼点は「組織能力」です。実際に組織能力の測定に基づくIT投資効果との相関を分析した事例研究で、その成果が立証されているためです。このため「組織能力の強化支援サービス」を提供することで、まずはお客様の組織能力を高め、その結果としてIT投資効果の向上を高める取り組みを推進しております。

 この組織能力の強化支援サービスは、大きく①組織変革機能の強化、②組織的な抵抗の抑制の2つに分けられます。後者(②)については、2019年に実施されたIMD(スイスのローザンヌに拠点を置くビジネススクール)による世界競争力ランキングの結果、『企業の順応性』で世界最下位となったため、特に日本の組織には必要との認識で取り組みを進めています。このため弊社では、はじめに組織の現状を把握し、組織的な課題を体系的に診断する「組織特性診断サービス」をご提供しております。

 一方、前者の「①組織変革機能の強化」については、最近議論する中で必ず行きつくポイントがあります。それは『変革を推進する人材の育成』です。日本企業として全般的に、ここをどうしていくのがよいのかという点が共通の課題になってきているためだと感じています。

 この議論の際、私はマッキンゼー社で発案された組織変革のためのフレームワーク(7つのS)を用いています。今回はそこで考察している内容についてご説明したいと思います。

<図>

 まず、現状(これまで)の認識です。組織構造(Structure)については、人および組織の性ではありますが、まだセクショナリズムが蔓延りがちです。制度・ルール(System)は、硬直化している部分があるものの、過去からの継承というつながりもあるため、なかなか見直しが進まず前例を踏襲する形に陥りやすい。スタッフ(Staff)・スキル(Skill)は、従来からの仕組みを効率的に運営・管理する能力が高い方の割合が大きいこともあり、結果的に戦略(Strategy)としてオペレーショナル・エクセレントを志向する傾向にある。また、低成長・成熟という市場環境もあり、共有価値(Shared Value)スタイル(Style)は挑戦的なことを避け、勝負をしない風土が根付いている。すべてではありませんが、このような現状にある日本企業が多いと捉えています。

 このような状況を踏まえつつ、現在かかえている日本企業の課題である「変革を推進する人材の育成」に向けてどうしていくのがよいのか。大きくは2つのポイントがあると考えています。1つが仕掛けの設計。もう1つが新たなスタイルの醸成です。前者の仕掛けとは基本的に「挑戦の場づくり」と「各種の制度改定」を指し、後者の「新スタイル醸成」は、経営層およびミドル層がその仕掛けを育てていくために、新たなマネジメント方法を導入し、定着化していくための取り組みを指しています。この点、前者の仕掛けづくりは比較的イメージしやすいため、経営層の意思次第と言えます。一方で後者の新たなスタイルづくりが会社ごとの状況もあり、難しい部分です。但し経営トップ層とミドル層で分けて考えていくと、経営トップ層については、名著「両利きの経営」で語られている事業のポートフォリオ・マネジメントという拠り所があるため、それをベースに具体化していくことができています。このため難しい点は、ミドル層として取り入れていく部分と言えます。

 ここで参考となる考え方としては、アジャイルやリーン・スタートアップといったものがあります。ライトな計画に基づき、試行錯誤しながら柔軟に取り組んでいくアプローチです。このアプローチを組織に適用していく際、ミドル層にはどのようなマネジメント・スタイルが求められるのか。従来のように計画は精緻化しないため、日々の状況をタイムリーに把握し、適宜適切にマネジメントしていく必要が生じます。従来、計画に基づく管理を行ってきたミドル層にとっては、ストレスを感じる方も多いように感じます。

 他方、私が重要だと考えている点は、上記のようなアプローチとは別の部分です。それは「レッスンラーンドの風土」づくりです。試行錯誤を許容する取り組みの中で、それ自体の振り返りを皆で行う。組織的な学習を重視することで、個人の気づきを組織の成長につなげていく部分です。貴重なトライアル経験を「学習機会」と捉えて成果に繋げていくためにも、この部分が成否を分けると言っても過言ではないと考えているためです。そして改めて、そのためにも、組織の中に「心理的安全性」を醸成していくことが欠かせない。そう考えています。

 変革を推進する人材の育成は一筋縄では進みません。その意味で、この取り組み自体が試行錯誤の取り組みともいえ、この部分の「レッスンラーンド」こそが将来を左右していくのではないかと考えています。