◆第22回(組織的な判断の質的な向上)
明けましておめでとうございます。なかなかコロナも落ち着きませんが、前を向いて、できることを懸命に進めていきたいと考えています。改めまして弊社のベースにある考えは、高度化・拡張の一途にあるIT化と併せて、組織(制度やルールなど)への投資にも目を向けて頂き、企業として得られる効果を確実なものにしていく点にあります。そして、この結果として人・組織がいきいきと働ける環境の醸成に寄与していきたいと考えています。本年も奮闘して参りますので、どうぞ宜しくお願い致します。
弊社が組織投資に着目する理由は、IT化投資により得られる効果をより高められる点に加えて、硬直化している組織感性の柔軟性を高めることが、現在の日本企業に強く求められていると考えているためです。そして、この後者の取り組みを推進していく上でのテーマはいくつかありますが、その1つに「組織的な判断の質的な向上」があります。野中郁次郎教授らによる『失敗の本質』のように、歴史・時間軸を通して人間や組織を洞察する方向性もありますが、今回は組織心理学的な観点から、この内容について論じたいと思います。
以前このブログでバイアスについて発信しました。これは個人の考え方などの偏りに起因して起こる判断のエラーに関するものでした。昨今ではリーダー層に限らず、現場の担当者層にも重要な判断が求められる状況を鑑み、意識すべき点として説明させて頂きました。
この個人と同様に、組織(としての意思決定)でも判断のエラーは起こりえます。組織は当然に複数人で構成されていて、いい意味で一人ひとりの考え方や目的などが異なります。このため(個人ごとの)「判断のバラつき」が起こることが背景にあります。
ここを対話によってより適切な判断につなげていくことが望ましい組織と言えます。優れたリーダーが皆の英知を結集し…と言えればよいのですが、風通しの悪い組織では、なかなかバラつきが是正されず、一貫性を欠いた取り組みを進めてしまった結果、望んだ方向に至れないケースが起こっています。
この(個人ごとの)「判断のバラつき」を、業界用語で「ノイズ」と言います。このノイズは以下のように分類されます。
「レベル・ノイズ」とは個人の判断エラーの原因となるバイアスと同様に、判断する人の考え方によって(組織でも)判断がバラついてしまうことを指しています。顕著な例が、自分の役割や所属する部署といった特性によって判断が異なってくる部分です。「パターン・ノイズ」は、対する相手によって判断が変わってくるというものです。人はどうしても相手の好き嫌いや関係性の大小によって、判断が異なってくるという部分です。最後の「機会ノイズ」はタイミングによる判断のバラつきです。上長の気分…とまでは言わなくとも、経営環境の変化や方針の変更といったタイミングによって判断が変わってしまう部分です。
こうしたノイズと対峙しつつ、「組織的な判断の質的な向上」を目指すにはどうしていくのがよいのか。私は今年のテーマの1つとして、実践しつつ検証していきたいと考えています。明確な点は、判断して実施した結果を検証することではありません(正確には判断の内容そのものを評価することではありません)。組織的な判断の質的な向上を図っていくことが目的のため、そのプロセスに注意を払う必要があるという点です。組織的な判断のエラーを最小化できるようにする「適切な判断プロセス」の分析と言えます。
この点、通常、人の判断は「臨床的判断」を用いていると言われます。臨床的とは医療のイメージが強いと思います。言葉の通り、実際に直接確認して事実を掴む。それに基づいて判断していく方法です。そしてこの部分は、人の認知の限界およびバイアスによる判断の歪みが生じうるため、アプローチに進化がみられます。線形回帰などのモデルを活用した判断や、AI(機会学習アルゴリズムなど)&ビッグデータをいかした判断です。技術面の進化、及び様々な情報の捕捉が可能になったこともあり、大きく進化している部分です。
他方で臨床的判断を含めて個人の判断がいくら優れている、進化していったとしても、上述のノイズによって「組織としての判断の精度」が損なわれてしまい、望ましくない結果を招いてしまうケースが残ります。実際に、この点を検証し証明している研究も数多く報告されています。語弊を恐れず表現すると、ダメな組織の判断は全く当てにならないことの証明と言えます。
- ここまでの記載に関して、1点お断りしておきたい点があります。あくまでノイズとは、望ましくない結果につながる組織における判断のバラつきを指しているという点です。判断のバラつきがむしろ好ましい場合もあるためです。具体的には、新しい企画やアイデアを考える際などは、いろいろな意見が必要となります
本質的には、多様な人材が集い、多様な意見を自由に話せる”場”がある。そこで皆との対話によりアイデアや判断を昇華・推敲できる(少なくとも建設的な議論が十分に行われる)。そしてその判断を皆が納得して一体的に取り組む。これが重要なことですが、実行していくことがとても難しい。自己主張の強い個人に見られる「客観的無知*」における判断、組織において日本人が大いに尊重する「組織的圧力」とも言える影響があるためです。
*)調べればわかるが調べ切れていない情報&知り得ない情報を把握していない状態(人は自信があればある程、そうした情報を過小評価して判断する傾向がみられる)
日本に限らず世界中の企業でダイバーシティを重視する企業が増えています。この背景には意見の多様性が求められ、多面的な見方が強く求められるという「経営環境」の進化があります。判断の厚みが増し、社会としての成熟度を増していく上でも、とても望ましいと考えています。他方で「ノイズ」(組織における判断のバラつき)を抑え、組織として適切な意思決定を行うことも求められます。ある意味、この二律背反的な取り組みが、特にマネジメント層に求められており、このバージョンアップが必要だと感じています。この点を打開していきたい。今年は、これをテーマの1つとして、じっくり考えつつ、実践していきます。