◆第34回(欲求の質的な転換)
謹んで新春をお祝い申し上げます。旧年中はひとかたならぬご愛顧にあずかり、誠にありがとうございました。本年も一層のサービス向上を目指し、社員一同誠心誠意努める所存でございます。本年も倍旧のご支援のほど宜しくお願い申し上げます。
昨年は、弊社のメインテーマである組織に着目したブログを発信させて頂きました。組織変革に関するトピックとしては、「関係性の質(第24回)」、「テスト&ラーン(第25回)」、「現場の再生(第26回)」、「学習する組織の意義(第28回)」、「問題の構造を探求する(第33回)」などを。また、自らの実践も踏まえたマネジメント・スタイルの再生や目指すべきマネージャ像に関するトピックとしては、「組織的な判断能力の強化(第27回)」、「エンゲージメント・マネジメント(第29回)」、「再考サイクル(第30回)」、「マネジメントのアップグレード(第31回)」などを発信させて頂きました。
最近は実際の取り組みを行わせて頂く際、やはり「パーパス経営」や「エンゲージメント・マネジメント」といった観点が切り口になる、着目されていると感じています。一方で、同時に強く感じていることがあります。それは、個々人の”欲求の質的な転換”です。
そう感じていた際に、あの有名なマズローの「欲求5段階説」にはその先があることを知りました。あまり知られていないのは、晩年に主張していたためのようです。
第5段階は自己実現であるのに対して、他人や社会のために尽くしたいという自己超越欲求が第6段階にくるというものです。精神的欲求を求め続けた20世紀と異なり、多くの若者はこの欲求に行きついている割合が高いように感じています。環境や社会を尊重することが望ましいという考え方が自然に身についているのだと思います(下の図ご参照)。
<図>
また、成熟社会として課題ばかりが取り上げられやすい先進国では、エシカル消費に対する関心はミレニアル世代の若者のみならず高まっています。
振り返ると、20世紀に取り上げられていた企業経営に関する理論やその書籍は多数あります。有名なもの(私が意義を感じたもの…)に、『コア・コンピタンス経営』(ゲイリー・ハメル他)、B・ワーナーフェルトによって提唱されたのち、バーニーによる研究で着目された「RBV(リソース・ベースト・ビュー)」、やや新しいものとしては『ビジョナリー・カンパニー』(ジェームズ・C・コリンズ他)などがありました。また、経営戦略論の古典としてマイケル・E・ポーター教授の『競争の戦略』がありました。
そこで改めて面白いと感じるのは、戦略論の大家であるマイケル・E・ポーター教授の着眼点の進化です。それはCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)モデルの中に見られます。組織は、顧客価値を越えた「社会価値/共通価値」を志向すべきだと主張している。そして、この部分は(上述の)個々人の”欲求の質的な転換”を踏まえた新しい視座を指し示している(と私はとらえています)。
20世紀のように顧客の欲望によりそって、環境や社会を毀損することは許されない。本業を通じて環境や社会を良くし、その結果、経済価値を高めることこそ、21世紀型の経営モデルだと主張している。顧客獲得=競争のみの観点(競争戦略)から、社会や環境といった多様な観点を踏まえた考察を行い、「社会価値」を生み出していく(CSVモデル)時代だという主張に進化させている。
矛盾するようですが、「社会価値」は大局的な視点から“ヒト(顧客など)の変容”をしっかりとらえていくことが前提になると思います。そしてその根底に、単なるポピュリズムではない、ヒトの“欲求の質的な転換”がある。
弊社は、各社が進めているDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みにおいて、D(デジタル化)よりもむしろX(トランスフォーメーション)に重きを置いています。D(デジタル化)とセットで取り組むべき組織の風土や制度などの組織資産の見直し(X)に課題があると考えているためです。
このため、前提となるヒトや組織の本質を正しくとらえていきたい。さまざまな理論を学び実践し続けるとともに、「今」と「先」を見すえて考え続けていきたい。大家と言われる存在に至ってもなお進化を続けるマイケル・Eポーター教授にならい、我々も成長し続けていきたい。決意を新たにそういう年にしたい。そう考えています。