◆第46回(変革を推進する人材の育成)
弊社は『日本企業が行うIT投資による効果が、十分に得られていない』という課題認識に基づき活動しております。着眼点は組織能力です。実際に組織能力の測定に基づくIT投資効果との関係性を分析した事例研究で、その成果が立証されています。弊社でも5業界に分けて計200社の定量分析を行い、実証しました。このため「組織能力の強化支援サービス」を提供することで、まずはお客様の組織能力を高め、そのつづきとしてIT投資効果の向上を高める取り組みを推進しています。
この組織能力の強化支援サービスは、大きく以下の2つに分けられます。
- 組織変革機能の強化
- 組織的な抵抗の抑制
後者(②)については、2023年に公表された米ギャラップ社の「State of the Global Workplace : 2023 Report」にある通り、社員の仕事への熱意、会社への帰属意識は世界125カ国で最下位となったため、特に日本の組織に必要との認識で取り組みを進めています。このため弊社では、はじめに組織の現状を把握し、組織的な課題を体系的に診断する「組織特性診断サービス」をご提供しています。
一方、前者の「①組織変革機能の強化」については、最近議論する中で必ず行きつくポイントがあります。それは『変革を推進する人材の育成』です。日本企業として全般的に、ここをどうしていくのがよいのかという点が共通の課題になってきているためだと感じています。
この議論の際、私は米国コンサルファームのマッキンゼーで発案された組織変革のためのフレームワーク(7つのS)を用いています。今回はそこで考察している内容についてご説明したいと思います。
<図>
まず、現状(これまで)の認識です。組織構造(Structure)については、「戦略が組織を規定する」と言われる欧米企業と異なり、日本企業では「組織が戦略を規定する」傾向にあり、かつ大企業であればあるほど上下のつながりが重視されます。その結果として、セクショナリズムが蔓延り、状況に応じた最適化が難しい。
制度・ルール(System)は、硬直化している部分が多い。過去からの継承というつながりもあるため、なかなか見直しが進まず前例を踏襲する形に陥りやすい。スタッフ(Staff)・スキル(Skill)は、従来からの仕組みを効率的に運営・管理する能力が高い方の割合が多いこともあり、結果的に戦略(Strategy)としてオペレーショナル・エクセレントを志向する傾向によりやすい。また、低成長・成熟という市場環境もあり、共有価値(Shared Value)やスタイル(Style)は挑戦的なことを避け、勝負をしない風土が深く根付いている。すべてではありませんが、このような状況・傾向にある日本企業が多いと捉えています。
このような状況認識を踏まえて、現在抱えている日本企業の課題である「変革を推進する人材の育成」に向けてどうしていくのがよいのか。ポイントがあると考えており、それは以下の2つに集約されます。
- 仕掛けの設計
- 新たなスタイルの醸成
前者の仕掛けとは基本的に「挑戦の場づくり」や「各種の制度改定」を指し、後者の「新たなスタイルの醸成」は、経営層およびミドル層がその仕掛けを育てていくために、新たなマネジメント方法を導入し、定着化させていくための取り組みを指しています。この点、前者の仕掛けづくりは比較的イメージしやすいため、経営層の意思次第と言えます。
一方で後者の新たなスタイルの醸成は、会社ごとの状況もあり難しい部分です。但し経営トップ層とミドル層に分けて考えると、経営トップ層については、名著「両利きの経営」で語られている事業のポートフォリオ・マネジメントという拠り所などもあり、それをベースに具体化していくことができます。このため難しい点は、ミドル層として取り入れていく部分です。
ここでベースとなる考え方は、アジャイルやリーン・スタートアップといったものです。ライトな計画に基づき、試行錯誤しながら柔軟に取り組んでいくアプローチの積極的な採用です。このアプローチを組織に適用していく際、ミドル層にはどのようなマネジメント・スタイルが求められるのか。従来のように計画を精緻化しないため、日々の状況をタイムリーに把握し、適宜にマネジメントしていく必要が生じます。従来、緻密な計画に基づく管理を行ってきたミドル層にとっては、ストレスを感じる方も多いように感じます。
他方、私が重要だと考えている点は、上記のようなアプローチとは別の部分です。それは「レッスンラーンドの風土」づくりです。試行錯誤を許容する取り組みの中で、それ自体の振り返りを皆で行う。組織的な学習を重視することで、個人の気づきを組織の成長につなげていく部分です。貴重なトライアル経験を「学習機会」と捉えて成果に繋げていくためにも、この部分が風土変革、その結果としての成否を分けると言っても過言ではないと考えているためです。そして改めて、そのためにも、組織の中に「心理的安全性」を醸成していくことが欠かせない。
変革を推進する人材の育成は一筋縄では進みません。時間を要します。その意味で、この取り組み自体が試行錯誤の取り組みとも言えます。この「レッスンラーンド」の粘り強い継続こそが(現在、求められている)新たなスタイルの醸成に強く求められている。そう考えています。